キヤノンは3月27日、ミラーレスカメラの新製品「EOS R50 V」を発表しました。「V」の名称から分かる通り、動画撮影やVlog撮影、動画配信に最適化した動画志向のエントリーモデル。スマホでしか撮影体験がない初心者でも、簡単な操作で印象的な動画が撮影できるよう仕上げています。フルサイズではなくAPS-Cセンサーを搭載することで、4K撮影に対応しながら本体を小型軽量化しつつ、低価格化も図っています。簡単操作と小型軽量ボディで扱いやすさを重視しつつ、レンズ交換式カメラならではの撮影性能と拡張性を備えていました。

  • 5月下旬発売予定のAPS-Cミラーレス「EOS R50 V」。RFマウント初の電動ズームレンズ「RF-S14-30mm F4-6.3 IS STM PZ」もあわせて投入するなど、扱いやすさを重視した動画志向モデルとして入門者に売り込む。電動ズームレンズが付属するレンズキットの実売価格は140,800円

とことん動画重視の装備、縦位置撮影用の三脚穴も

EOS R50 Vは、RFマウントのミラーレスカメラに加わった新ラインナップ。APS-Cセンサーを搭載した入門者向けミラーレス「EOS R50」をベースに、EVF(ファインダー)など動画撮影では優先度の低い装備をカットしつつ、動画撮影関連の装備や機能を充実させています。キヤノンは、動画志向のレンズ一体型カメラ「PowerShot V1」を2月に発表したばかりですが、矢継ぎ早に動画志向カメラを投入してきました。

  • フラットな上部とカーブを描く側面が印象的なモダンなデザインに仕上げている。Canonロゴの隣にタリーランプを配置する

  • ベースとなったEVF搭載の兄弟モデル「EOS R50」(右)と比べると、EOS R50 V(左)はグッと高さが抑えられている

  • 1.4インチセンサーを搭載するレンズ一体型モデル「PowerShot V1」(右)と並べた。どちらも動画志向のVシリーズながら、デザインは差別化を図っている

EOS R50 Vの本体は、APS-Cセンサー搭載でEVFを省いたこともあり、かなりコンパクトなまとまり。それでいながら、大きなグリップを備えるカメラらしいデザインを継承しており、カメラに魅力を感じる若年層に響きそうな印象です。

  • APS-Cサイズのセンサーを搭載。隅に大きな動画撮影ボタンを配置する

  • 動画志向モデルらしく背面液晶はバリアングル式。写真撮影の露出モードはメニューから選択する必要がある

EOS R50 Vを見ると、動画志向のカメラであることが随所にうかがえます。まず上部のモードダイヤルは、ほかのEOS Rシリーズにはない動画用のポジションがズラリと並び、写真のポジションは1つだけ。写真撮影用のP/Av/Tv/Mモードはメニュー画面から選択します。ケージの装着を見込み、本体上部はダイヤル類の出っ張りを最小限に抑えたといいます。

  • 上部には、ライブ配信用の設定画面を呼び出せるLIVEボタンを配置。シャッターボタンの周囲には、コンパクトデジカメのようなズームレバーを配置しており、電動ズームレンズのズーム操作ができる。モードダイヤルは動画のポジションが大半を占めている

装備面では、前面下部にも動画撮影ボタンを用意し、自撮りなどの際もボタンを手探りする必要なく撮影できるようにしています。前面にはタリーランプも備えています。

ユニークなのが、グリップ側の側面にも三脚穴が用意され、別途L型マウントなどを装着せず縦位置撮影時に三脚に装着できること。動画撮影時のみに限られますが、縦位置にすると画面も縦位置用のUIに切り替わります。

  • グリップ側の側面に三脚穴があるので、縦位置の状態で三脚に固定できる。これは便利

  • 動画モードに限られるが、縦位置にするとUIも縦位置表示に変わる。PowerShot V10のような片手撮りを提案しているのが面白い

ステレオマイクを上部に内蔵するも、PowerShot V1とは異なり“モフモフ”(ウインドジャマー)はオプションでも用意していません。音声のクオリティを重視する人は外付けマイクを接続して使うだろう、という判断でのモフモフ不採用とのことです。

EOS R50 Vは、新開発の電動ズームを採用した標準ズームレンズ「RF-S14-30mm F4-6.3 IS STM PZ」が付属するキットモデルを用意します。EOS R50 Vは本体のシャッターボタン周囲に回転式のズームレバーを用意し、コンパクトデジカメのように指先でズームできるようになっています。レンズの回転によるズームよりも手軽に操作できるうえにカメラの揺れが少なくて済み、レンズ交換式カメラに慣れていない人にはメリットとなりそうです。ズームの速度は、レンズのズームリングとカメラのズームレバーの両方で速度を細かく設定できます。

各社の動画志向カメラと同様に、インターネット経由で入手したり自分で作成したLUTファイルを適用して表現を変える「Look File」機能も新たに搭載しています。

  • 各社のミラーレスカメラで採用が進むLUT適用機能も搭載した

写真撮影の性能も手を抜いていない

動画志向モデルとはいえ、スチル(写真撮影)の性能も手を抜いていないのは評価できます。AFは、さまざまな被写体認識機能も備えており、連写もメカシャッター撮影時は12コマ/秒の高速連写に対応します。EVFはないものの、写真撮影でもストレスなく活用できそうです。

カラーは、海外ではホワイトモデルを用意するものの、日本ではブラックのみを投入します。ただ、ブラックモデルの発売後にホワイトモデルを追加した「PowerShot V10」の例もあり、反響次第では日本投入の可能性もありそうです。

EOS R50 Vは動画志向のミラーレスとはいえ、写真撮影で重要なAFや連写も手を抜いていないのは好印象です。PowerShot V1とは異なる柔らかでモダンなデザインも好まれそうです。

キヤノンオンラインショップでの価格は、ボディ単体モデルが113,300円、電動ズームレンズが付属するキットモデルが140,800円。昨今、ミラーレスカメラは高性能化で価格が上昇したことが敬遠され、一般層の購買意欲が薄らいでいますが、EOS R50 Vは「本格的なカメラなのに高性能iPhoneより安い」と幅広い層に響きそうです。

キヤノンのカメラ事業を統括する、キヤノン 副社長執行役員 イメージンググループ管掌の戸倉剛氏は「EOS R50 Vは、動画重視のEOS Vシリーズの第1号機。キヤノンのカメラらしくAF性能には自信があり、キットレンズのサイズ感もよく、全体的にかなりいい感じに仕上がったのではないかと自負している。既存シリーズのラインナップはひととおり揃ったので、今後はEOS Vシリーズのバリエーションを増やしていきたい」と語り、RFマウントの動画志向モデルを強化していく方針を示すとともに、EOS R50 Vの仕上がりに自信を見せました。

  • EOS R50 Vの仕上がりに自信を見せる戸倉剛氏。「創造力を刺激するデザインにも注目してほしい」と語った