「Z50II」は、APS-Cセンサーを搭載するニコンのミラーレスカメラ。2024年12月にそれまでの「Z 50」からバトンタッチしました。Z50IIの主要な機能や先代モデルからの進化点、操作感などの紹介に加え、Z50IIの小型軽量ボディを生かすシグマのAPS-C専用単焦点レンズ3本と組み合わせた作例をご紹介します。
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Z50IIは、APS-Cサイズのイメージセンサーを搭載する“Z二桁機”。被写体認識AFやプリキャプチャーモードなどを新たに採用するなど、ユーザーのスキルを問わず使えるミラーレスに仕上がっています。写真は「NIKKOR Z DX 16-50mm f/3.5-6.3 VR」を装着した状態。同社通販サイトでの販売価格は、この組み合わせである「Z50II 16-50 VRレンズキット」が166,100円、ボディ単体モデルが145,200円となります
エントリー機ながら機能や装備が底上げされた
Zシリーズは、現在のところ3つのモデルがAPS-Cサイズのイメージセンサーを搭載しています。今回のZ50IIのほか、クラシックなスタイルが特徴の「Z fc」、Vlogなど動画撮影に軸足を置く「Z 30」です。これら3モデルのなかで、Z50IIはスタンダードと呼べる位置付けのミラーレスで、静止画撮影を主な目的とするエントリーユーザーからベテランユーザーまで幅広い支持を狙います。
Z50IIの外観は、Z 50からの変化が少なくありません。際立ったところとしては、ショルダー部が高くなったことに加え、正面から見て左ショルダー前面に動画撮影時に点灯するRECランプ(タリーランプ)が備わっています。ピクチャーコントロール専用のボタンを、新たにトップカバーのISO感度ボタンとメインコマンドダイヤルの間に設けたことも注目点。ピクチャーコントロールでは、フィルター機能であるクリエイティブピクチャーコントロールも選択できるので、積極的に活用するユーザーにとって便利に思える進化と言えるでしょう。
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カメラ前面部の様子。ボディやイメージセンサーに対しマウント径の大きさが際立ちます。全体的なボディシェイプはフルサイズのZシリーズに近づいたように思えます。有効2088万画素CMOSセンサーに、画像処理エンジンEXPEED 7を搭載しています
カメラ背面部は特に大きく変わりました。これまで、拡大ボタンなどいくいつかの操作部材は液晶モニターのタッチ操作としていましたが、すべて物理ボタンに変更。タッチ操作はどことなく心許ないところがあるので、操作感、操作性がぐっと向上したように思えます。ちなみにボタンレイアウトは、Z6IIIの背面からサブセレクターを省略したものに準じています。
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カメラ背面の操作部材は、一部が液晶モニターのタッチキーとしていたものから、すべて物理ボタンとなりました。サブセレクターは搭載されていませんが、それ以外は「Z6III」などに準じたレイアウトとしています。バリアングルタイプの液晶モニターを新たに採用しています
液晶モニターはスペックこそ3.2インチ、104万ドットと先代モデル同様ですが、チルト式からバリアングル式へと変わりました。チルト式でも下方向に180°液晶モニターが展開できるので自分撮りにも使用できましたが、バリアングル式では液晶モニターの動きに対する自由度が格段に大きく、それに合わせて視認性も高くなりました。ただし、液晶モニターとボディをつなぐヒンジが出っ張ってしまうことや、液晶モニターをボディから開いた状態では光軸から画面が大きく外れてしまうため、ユーザーや使い方によっては具合が悪く感じることもありそうです。
キーデバイスである有効2088万画素のイメージセンサーは従来を踏襲します。ただし、画像処理エンジンはそれまでのEXPEED 6からEXPEED 7に変わりました。AFに流行りの被写体認識AFが搭載できたのは、この画像処理エンジンの進化によるものと思われます。認識する被写体は、人物、動物、鳥、乗り物、飛行機のほか、カメラが自動的に被写体を判断して認識するオートも搭載します。このAFを使用した印象として捕捉精度は極めて高く、被写体を外してしまうことはありませんでした。ユーザーのスキルにかかわらず積極的に活用できそうです。
同様に、シャッターボタンを全押しする前にさかのぼって画像を記録するプリキャプチャーモードが搭載されたのも、画像処理エンジンの進化と述べてよいでしょう。JPEGのみの記録となりますが、最大1秒前からの画像を保存します。予期せぬ動きをする被写体の撮影など重宝すること請け合いです。
画質モードにHEIFが採用されたのもトピックです。同フォーマットは、JPEGよりも圧縮効率が高く、しかも高画質が得られます。現時点でこのフォーマットに対応する環境はまだ十分ではありませんが、ライバルのソニーやキヤノンも積極的に採用していますので、これからの展開が大いに期待できそうです。
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マウント外周に2つのファンクションボタンを配置。デフォルトではFn1がホワイトバランス、Fn2がAFモードの設定となります。このボタンを使いこなすようになったら、もうビギナーではないと言ってよいでしょう
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撮影モードダイヤルとメインコマンドダイヤル、そしてISO感度ボタンに囲まれた位置に、新たにピクチャーコントロールボタンが置かれました。仕上がり設定であるピクチャーコントロールのほか、フィルター機能であるクリエイティブピクチャーコントロールもここで選択が可能です
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インターフェースは、上から外部マイク入力端子、ヘッドフォン/リモートコード端子、HDMI端子、USB端子となります。ボディ内充電に加え、外部バッテリーを使用した充電も可能としています
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ペンタカバーの側面にあるレバーをスライドさせると内蔵フラッシュがポップアップします。ガイドナンバーは7(ISO100・m)。記録やちょっとした記念写真の撮影など重宝しそうです。なお、フラッシュの収納は手動で行います
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バッテリーは「EN-EL25a」を使用。撮影可能コマ数は、EVF使用時が230コマ、液晶モニター使用が250コマとなります(いずれもメーカー発表値/パワーセーブOFF時)。なお、バッテリーチャージャー「MH-32」は別売となります
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チルト式からバリアングル式になった液晶モニターのスペックは、先代モデルと同じ3.2インチ、104万ドットとなります。静止画および動画での自分撮りのときはバリアングル式のほうが自由度は高いので、重宝すると思われます
さらにEVFの進化も見逃せない部分。スペック自体は0.39型236万ドットと従来と同じですが、輝度はそれまでの約2倍に。明るく鮮明な表示を実現し、ピントの状態などより把握しやすくなったように思えます。本モデルが本来ターゲットとするユーザー層はライブビューでの撮影が多いのかもしれませんが、ファインダーに接眼して撮る往年の構え方がいかに被写体に集中できるかを知るきっかけにもなりそうです。
仕上がり設定であるピクチャーコントロールのなかにフィルター機能のクリエイティブピクチャーコントロールを加えているのは先代モデルと同様ですが、新たにZ50IIではクラウドピクチャーコントロールとしてインターネットを経由して有名クリエイターが作成した仕上がり(レシピ)も無料でカメラにインストールできます。現時点では25名のクリエイターが登録されており、それぞれのレシピで撮影した作例も閲覧できます。また、自身が作成したレシピをこのクラウドで保存管理することも可能です。前述したピクチャーコントロールボタンの搭載も含め、仕上がり設定に関する進化もZ50IIの見逃せない部分です。
Z50IIを手にした印象としては、適度に小型軽量であるためハンドリングは上々。グリップも右手で握りやすく感じます。ファインダーの見やすさは前述のとおりで、EVFを積極的に活用したく思えるほど。キレの良いシャッター音とともに撮る楽しさが味わえると述べてよいでしょう。ボディ内手ブレ補正機構は搭載されていませんが、高感度にも強いカメラですので、そのような状況になったら躊躇わず感度を上げるとよい結果が得られると思います。もっとも、手ブレ補正が備わっていたとしても、カメラをしっかり構えて初めてその効果が得られるわけですので、よほどの低速シャッターでの撮影でない限り搭載されていないことを気にする必要はさほどないように筆者個人は思っています。
なお、ミラーレスではEVFや液晶モニターで露出の状態がリアルタイムで把握できるため、AE撮影時の露出補正はより積極的に行う操作のひとつとなりました。Z50IIの露出補正の方法は、これまでどおり露出補正ボタンを押しながらメインコマンドダイヤルで行うものですが、それではボタンを押すワンアクション手間が必要で、スピーディかつ直感的に補正することができません。ダイレクトにメインコマンドダイヤルだけで露出補正できるようにしてほしく思えた部分です(カスタム設定で対応できないか確認したのですが、残念ながら対応していないようでした)。
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階調モードでは、一般的なSDRのほかHLG(Hybrid Log Gamma)も選択できるようになりました。HLG は、HDRの記録方式のひとつで、シャドー部もハイライト部も幅広く取り込むことができます。なお、この階調モードを選択した際はピクチャーコントロールが固定され、ベース感度はISO400となります
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常用での最高感度はISO51200、拡張によりISO204800相当のHi2.0の選択も可能。EXPEED 7となった画像処理エンジンにより、高感度域でのノイズレベルもさらに向上しています
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動画の記録形式はMOVとMP4から選択が可能。MOVは10bitと8bitから選べます。パソコンやプラットフォームなど環境に応じて使い分けるとよいでしょう。画像サイズおよびフレームレートは、通常の記録で最高4K/60Pに対応しています
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動画撮影専用として電子手ブレ補正を搭載しています。カメラを手持ちで歩きながら撮影しても、安定した映像を撮ることが可能。撮影時は、レンズの実焦点距離の約1.25倍の画角となります
シグマの単焦点レンズと組み合わせてみた
今回のZ50IIのレビューでは、シグマの単焦点レンズを使って作例撮影を行いました。使用したレンズは、いずれもAPS-Cフォーマットに最適化された単焦点レンズ「16mm F1.4 DC DN」「30mm F1.4 DC DN」「56mm F1.4 DC DN」の3本となります。開放F1.4の明るいレンズであるのもこれらの特徴で、発売以来高い人気を誇っています。ちなみにマウントは、今回使用したニコンZのほかL、ソニーE、富士フイルムX、マイクロフォーサーズ、キヤノンEF-M、キヤノンRFからも選べます。
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今回の作例撮影は、シグマのAPS-C専用の単焦点レンズ3本を使用しました。左より「30mm F1.4 DC DN」「16mm F1.4 DC DN」「56mm F1.4 DC DN」となります。現時点で、Zマウントに対応するAPS-C専用の単焦点レンズはこの3本となります
開放F1.4ながらAPS-Cフォーマット専用とすることでコンパクトに仕上がっています。Z50IIとの組み合わせでは、持った感じの大きさ重さのバランスもよいですし、カメラとこのレンズ3本の入るカメラバッグはコンパクトなもので済みそうです。ユニークに思えるのが鏡筒全長で、焦点距離の短い16mmが一番長く、焦点距離の長い56mmが一番短くなっています。ちなみに全長は16mmが90.3mm、30mmが71.3mm、56mmが57.5mmとなります。
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Z50IIに16mm F1.4 DC DNを装着した状態。13群16枚のレンズ構成で、FLDガラス3枚、SLDガラス2枚、グラスモールド非球面レンズ2枚を搭載。サジタルコマフレアや諸収差を抑え、絞り開放から高い解像力を実現したレンズとなります。最短撮影距離は25cm、フィルター径はφ67mm。同社通販サイトでの価格は69,300円です
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Z50IIに30mm F1.4 DC DNを装着した状態。非球面レンズや高屈折率高分散ガラスなどを7群9枚のレンズ構成のなかに効果的に配置し、周辺光量の低下を抑え、倍率色収差を補正。さらに高解像感で、Artラインに匹敵する高画質を実現したとしています。最短撮影距離30cm、フィルター径φ52mm。同社通販サイトでの価格は55,000円です
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Z50IIに56mm F1.4 DC DNを装着した状態。クラス最小とする中望遠レンズで、SLDガラスの採用により軸上色収差を補正するほか、周辺減光と歪曲収差はカメラ内での補正機能を使用する事を前提にレンズ設計を行なっています。最短撮影距離50cm、フィルター径φ55mm。同社通販サイトでの価格は69,300円となります
つくりの精度も高く、フォーカスリングの操作感も良好。気になったのは、フィルター径がバラバラなこと。16mmがφ67mm、30mmがφ52mm、56mmがφ55mmで、レンズごとにフィルターを揃える必要があります。開放値F1.4を維持するためだったのかもしれませんが、ちょっと考えて欲しかったところです。
写りとしては、いずれも現代的なレンズらしく解像感は高く、色のにじみなどよく抑えています。また、画面周辺部もしっかり結像しています。一般にサードパーティ製のレンズは、カメラ側の補正機能が効かないことも多く、そのため諸収差の補正などレンズ内で完結する必要があります。それは言うまでもなく高度な光学設計技術が要求されるわけで、今回紹介した3本のレンズも例外ではありません。それぞれの写りについては、掲載した作例をご覧いただきたいのですが、いずれも大いに撮る気にさせるもので、Z50IIとの組み合わせは撮影していてとても楽しく感じられました。
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Z50IIに限ったわけではありませんが、リアルタイムに画像の明るさが把握できるミラーレスは、露出をギリギリまで追い込むのも容易です。作例では筆者的に最適と思える露出を得ることができました。写りに関しては、色のにじみをはじめ諸収差をよく抑えています Z50II・30mm F1.4 DC DN・絞り優先AE(絞りF5.6・1/500秒・-0.33EV補正)・ISO100・WBオート・JPEG
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今回の作例撮影は、京浜東北根岸線の新杉田駅から東神奈川駅までの海沿いで行いました。写真は磯子で撮影したものですが、工場地帯はオブジェのような構造物が多く撮影が楽しめます。作例ではタンク表面の質感をリアルに再現しています Z50II・30mm F1.4 DC DN・絞り優先AE(絞りF4.0・1/2500秒)・ISO100・WBオート・JPEG
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潮で錆びついた鉄の手すりと鎖にカメラを向けました。絞りはF2.8。高い質感と立体感のある写りが得られました。背景の玉ボケは全体にきれいで、特に画面周辺で見受けられる口径食による変形も作例を見る限り見当たりません Z50II・30mm F1.4 DC DN・絞り優先AE(絞りF2.8・1/2000秒・-0.33EV補正)・ISO100・WBオート・JPEG
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真逆光というレンズにとって意地悪な条件での撮影です。薄くゴーストの発生が見受けられますが、撮影した条件を考慮するとよく抑えているほうだと思われます。むしろフレアの発生は皆無で、シャープネスの高いすっきりとした写りとなりました Z50II・16mm F1.4 DC DN・絞り優先AE(絞りF8.0・1/640秒・+0.33EV補正)・ISO100・WBオート・JPEG
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Z50IIは3-Dトラッキングをはじめ、多彩なAFエリアモードを搭載しています。状況に応じて選択するとよいでしょう。作例のようなピント位置に気を使う撮影では、ピンポイントAFを選択し、鉄条網の間を通して奥にある被写体にピントを合わせています Z50II・16mm F1.4 DC DN・絞り優先AE(絞りF4.0・1/3200秒)・ISO100・WBオート・JPEG
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根岸にあるヨットハーバーでは、火力発電所やコンビナートを間近に望むことができ、工業地帯のなかにあるハーバーであることを認識させらます。撮影は56mm。シャープネスは高く、ヨットのマストや細いロープなど鮮明に再現。緻密な写りが得られました Z50II・56mm F1.4 DC DN・絞り優先AE(絞りF8.0・1/200秒)・ISO100・WBオート・JPEG
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ヨットハーバー入り口近くに止まっていた古いスポーツカーにカメラを向けました。特徴あるエンブレムや円錐タイプのフェンダーミラー、ちょっとだけ見えるウッドステアリングなど、このクルマのイメージに合ったカットになったと思います Z50II・56mm F1.4 DC DN・絞り優先AE(絞りF2.0・1/4000秒)・ISO100・WBオート・JPEG
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横浜ノース・ドッグ近くで撮影。ネオンサインや建物のつくりが港町横浜を彷彿とさせます。シャッター速度は1/25秒ですが、握りやすいグリップや適度な重量感などからブレの発生を抑えることができました Z50II・16mm F1.4 DC DN・絞り優先AE(絞りF2.8・1/25秒)・ISO360・WB太陽光・JPEG
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やはり横浜ノース・ドッグの近くで撮影しています。夕暮れの空のグラデーションが美しく再現されています。被写体のエッジなどに付くことのある色のにじみも見受けられず、シャープネスの高い写りが得られました Z50II・16mm F1.4 DC DN・絞り優先AE(絞りF2.0・1/40秒)・ISO100・WB太陽光・JPEG
Z50IIは実に魅力的なミラーレスです。多彩な機能を搭載しユーザーを選ばないカメラであることに加え、このところ各社のカメラの価格が高騰していることを考えるとコストパフォーマンスも高く感じられます。カメラ初心者からニコンが好きなこだわりの写真愛好家まで満足できるカメラと言えるでしょう。同時に筆者個人としては、このカメラの上となる“Z二桁機”の登場にも期待したくなります。裏面照射型イメージセンサーの搭載をはじめメカシャッターの最高シャッター速度1/8000秒、手ブレ補正機構、サブセレクター、拡張性の高いカスタム設定など「Z 8」あるいは「Z 7II」のAPS-C版とも言えるミラーレスです。ネーミングは“Z70”あたりでしょうか。そのような妄想もしてしまいたくなるZ50IIでありました。