以前、あるビジネス雑誌が行った「『死ぬ間際に聞いた人生の後悔』の衝撃! 1,723人調査」で、健康面での後悔第1位は「歯をもっと大事にすれば良かった」でした。またシニア世代400人を対象に「失って後悔したこと」では、「髪の毛」「体型」を抑えて「歯」が1位になりました。年齢が上がると後悔の対象になる「歯」。今回は後悔しないための対策について迫ってきましょう。

ギネスにも認定「世界で最も蔓延している病気」

「ギネス世界記録」を発表しているギネスワールドレコーズが、2001年に「世界で最も蔓延している病気」として認定したのが「歯周病」です。さらに「この病気に感染していないのは、世界を見渡してもほんのわずか人間しかいない」とコメントしています。

ところで「感染」とは、細菌やウイルスなどの毒物が体内に侵入することを言います。感染後に毒物の病原性が生体の防御力に勝り、何らかの病的な症状が出るのが「発症」です。例えば非常に病原性の高い大腸菌O-157は数十個の菌で発症しますが、病原性が比較的弱いコレラ菌では数十万個に感染しないと発症しません。つまり「感染」=「発症」ではないのです。

また前述のように発症は生体の防御力と毒物の病原性とのバランスによるため、年齢が高くなり、防御力が低下すると発症しやすくなります。

歯周病は進行段階により「歯肉炎」と「歯周炎」に大別されます。「歯肉炎」は歯ぐきだけが炎症を起こした歯周病の初期段階。顎の骨に影響が及ばないので歯がグラグラしたり、抜けたりすることはありません。「歯周炎」は昔「歯槽膿漏」とよばれた病態が進行した段階。炎症が顎の骨にまで波及して歯がぐらつき、歯ぐきから膿が出て、最終的には歯が抜け落ちてしまいます。

歯周病の原因は「歯周病菌」ですが、「歯肉炎」や「歯周炎」のように「発症」していなくても、既に歯周病菌に感染している可能性は高いということになります。つまり世界中の人は歯周病菌に感染していると言っても過言ではないというわけです。

実は、若くても歯周病菌には感染している

口の中には約700種類の菌(口腔内常在菌)が住み着いていて、その種類は人によって千差万別。出生後から弱い菌が住み始め、年齢が上がるとともに強い菌が住むようになり、後から住み着いた強い菌が弱い菌を制圧するピラミッドのような力関係をつくります。

一旦、住みつく菌の種類が決まると、その菌は一生住み続け、口から除去することはできません。逆に菌種の決定後に他の菌が入ってきても住み着くことはできないため、時間が経つと自然に口からいなくなります。このように口の中は非常にヒエラルキーに厳しく、よそ者を受け入れない排他的な菌社会が形成されています。

歯周病菌は「最恐の菌」なので、最も遅い時期に住み着きます。歯周病菌にも数種類あり、最も強い「King of 歯周病菌」は「P.ジンジバリス菌」です。この菌の得意技は、弱い菌(日和見菌)を催眠状態にして操り、悪玉菌(=歯周病菌)を味方につけて勢力を高めることです。「P.ジンジバリス菌」にも種類があり、菌が強いものは弱いものの44倍以上も悪性度が高くなります。

口の中に菌が入る経路は唾液を介す唾液感染です。大皿料理や鍋料理を一緒につついたり、手づかみでポテトチップやピザを一緒に食べたり、会話で相手の唾が飛んできたりなど、日常生活で接する他人の唾液に混ざった菌で感染します。大皿料理をシェアする食文化の国では歯周病の発症率が高いことが調査でわかっています。

そして、歯周病菌に感染する年齢は(個人により前後しますが)18〜20歳代。特にキスは最も感染する割合が高い行為ですから、この時期に多くの方とキスをすると悪性度の高い歯周病菌をもらう可能性あります。

このように若くても歯周病菌に感染している可能性があるわけですが、長年の臨床経験を踏まえて言及すると「20歳代の人は既に歯周病菌に感染している」と言っても差し支えないでしょう。

20歳代、30歳代で歯ぐきから血が出る人は要注意

歯周病菌は「最恐の菌」ですが、悪性度が格段にパワーアップするきっかけがあります。むし歯菌が「草食系」なのに対し、歯周病菌は肉食系。「ヘミン鉄」という物質が大好物で、これを摂取すると悪性度が著しく上がります。この「ヘミン鉄」は赤血球のヘモグロビンにあるので、歯ぐきから出血する人はその血液で歯周病菌の悪性度を高めていることになります。

多くの人は出血の原因を「歯ブラシで歯ぐきに傷が付いたから」と誤解しているようです。歯磨き後に鏡を見て、歯ぐきや粘膜を観察してください。傷を見つけることはできないでしょう? 出血の正体は歯ぐきと歯の間に溜まっている血液です。

歯磨きが得意でない人の口の中は磨き残しがある状態なので、溜まった磨き残しに潜んでいる菌が歯ぐきに炎症を起こします。炎症を起こした歯ぐきは赤く腫れてブヨブヨに弱くなり、歯ぐきと歯との間の内側が擦り傷の様になったところからジワジワと出血して歯ぐきに溜まります。それが歯ブラシに押されたのが出血の原因です。

20歳代や30歳代では体の防御力が歯周病菌の毒性に勝るので歯周病の発症に至りません。通常の毒性を持った歯周病菌によって発症するのは45歳あたりですが、毒性の強い歯周病菌が付いた場合は35歳過ぎから発症します。この年齢で発症すると、歯周病の進行はとても早く破壊的なため、通常の歯磨きや治療で治せず、早い年齢で歯を失うことが多いです。

このような方の歯周病を治療するのはとても難しく、徹底的なプロケア(歯科医院での集中治療)と100%セルフケア(自分での歯磨きで100%の清掃率=磨き残し0%を目指すこと)が必要になります。しかし、治療開始が後手になると、挽回するのは至難の業です。

20歳代や30歳代で出血がある人は、悪性度が高い歯周病菌に感染していないか、歯科医院で一度検査を受けてはいかがでしょうか?前述のように、口の中に住み着く歯周病菌は変化しませんので、一度検査を受けておけば一生安心です。自費治療になりますが、口腔細菌検出装置orcoa(オルコワ)で検査をすると、歯周病菌で最も強い「P.ジンジバリス菌」のDNA検査が45分*で行えます。(*機器の測定時間の目安です)

将来の歯周病だけではなく、認知症や命に関わる病気の予防に

「歯周病」に加え、「むし歯」は歯の2大疾病と言われ、これらが原因で歯を失う割合は66%と報告されています(厚労省)。特に年齢が上がると歯周病に罹患する割合が高くなり、それに伴い歯周病で歯を失う機会も増えます。

歯周病に罹患している割合を年代別に見ると、24歳以下17.6%、25〜34歳32.4%、35〜44歳42.6%、45〜54歳49.5%、55〜64歳53.7%、65〜74歳57.5%となっています(歯科疾患実態調査)。

ここからが重要です。歯周病の怖いところは、口の中だけでなく、全身の健康に悪影響を与えることです。厚労省は歯周病が肥満などの生活習慣病や関節リウマチ、高血圧など全身の疾患の発症・進行、早産・低体重児出産にも影響を与えるとしています。アメリカ歯周病学会では、全身の100種類以上の疾患との関連も報告しています。

九州大学の研究として注目を浴びましたが、歯周病菌が認知症の原因であるアミロイドβを蓄積させることも判明しています。また歯周病菌は血管の内壁を慢性的に痛めるため、それを修復するためにカサブタを形成します。それが盛り上がって⾎管の幅が狭くなり、血栓が血管を防ぐことによって「梗塞」が起こることも分かっています。

これらが原因となり、歯周病がある人はない人に比べ、認知症が発症するリスクは約1.7倍、 脳梗塞のリスクは約2.8倍、 糖尿病リスクは約2.0倍も⾼くなります。

歯周病は「歯」の文字が入っているので、「歯」あるいは「口」だけの病気のように思ってしまいますよね? でも実情は全身の健康に被害を及ぼすとても怖い疾患なのです。「中年以降に後悔しないように今、できること」それは、ズバリ! 歯周病対策を中心とした「お口ケア」です。まだ歯周病が発症していない今から、かかりつけ歯科医に定期的に通い、しっかりした「お口ケア」を行なってくださいね!