名古屋大学(名大)は3月11日、「単層カーボンナノチューブ(CNT)薄膜透明電極」(CNT電極)を用いた10cm角(100cm2)サイズの「ペロブスカイト太陽電池モジュール」(CNT-PSC)の作製に成功したと発表した。
同成果は、名大大学院 工学研究科 化学システム工学専攻の松尾豊教授(名大 未来社会創造機構 マテリアルイノベーション研究所兼任)、同・大島久純特任教授(名大 未来材料・システム研究所 産学協同研究部門 デンソー革新的ナノカーボン応用産学協同研究部門兼任)、同・上岡直樹助教、デンソー、デザインソーラーの共同研究チームによるもの。
CNTは、炭素原子が六角形に並んだシートが筒状になった構造を持ち、優れた電気伝導性、強度、熱伝導性を持つことで知られる。薄膜化することで、優れた電気伝導性は維持しつつも光を透過できるようになることから、太陽電池の透明電極として理想的な特性が実現されるとして期待されている。
一方のペロブスカイト太陽電池は、ペロブスカイト構造の有機無機ハイブリッド材料を発電層に用いた太陽電池だ。溶液塗布という高効率かつ低コストで容易に製造でき、軽量かつフレキシブルであることから、従来のシリコン太陽電池では不可能だった場所にも容易に設置できる点が大きな特徴であり、次世代太陽電池として大いに注目されている。
これまで、ペロブスカイト太陽電池の裏面電極(発電層で発生した電流を収集する電極)には金、銀、銅などの金属の蒸着薄膜が使用されてきた。しかし、銀や銅はペロブスカイト太陽電池のヨウ素に酸化され、金は高価であるといった課題をそれぞれ抱えていた。加えて、製造プロセスにおいても大型の真空装置を必要とし、次世代太陽電池の大面積化や量産化における制約となる可能性もあった。そこで研究チームは今回、裏面電極にCNT電極を用いて、透光性があり、両面受光が可能なCNT-PSCを10cm角サイズのモジュールとして作製したという。
従来の金の裏面電極(金電極)を使用したペロブスカイト太陽電池に比べ、今回開発されたCNT-PSCは意匠性に優れた特徴を持つ。従来のペロブスカイト太陽電池では金電極側から見ると電極が目立ってしまうが、CNT-PSCではCNT電極側から見ても電極が目立たず、その透光性により向こう側の景色を視認可能できる。また発電効率は金電極を用いた従来のペロブスカイト太陽電池に比べて若干劣るものの、この特徴により光を入射させる面を反転させても、同等の発電効率を与えることが確認されている。
さらに、金電極は拡散によってペロブスカイトの分解を促進してしまう懸念を抱えているのに対し、CNT電極は高い安定性により、ペロブスカイト太陽電池の耐久性向上にも寄与するとのこと。加えて、今回正孔ドープ材料として使用された「2,2,2-トリフルオロエタノール」は、CNT電極を使用したペロブスカイト太陽電池の安定性をさらに強化することが明らかにされている。
ペロブスカイト太陽電池は、耐久性が低いことが実用化する上での大きな課題となっていた。この問題は、たとえバリアフィルムで封止を施したとしても、金属電極を使用し続ける限りは解決できない可能性もあった。しかしCNT電極であれば、この問題に対処できる可能性がある。曲面のパイ電子共役系であるCNTは、ラジカル種や活性酸素を消去し、ペロブスカイト太陽電池の耐久性を向上させるからだ。
シリコン太陽電池は硬くて重いシリコン基板を使用し、高温処理が必要であるのに対し、CNT-PSCは電極の材料が炭素であることから、柔らかく軽量なペロブスカイト太陽電池を製造可能だ。またCNT電極は転写により積層されるため、製造プロセスもさらに低減されることが期待されるとしている。
現在、CNT-PSCは、名大の研究施設であるナショナルイノベーションコンプレックス館にあるシアトルエスプレスカフェ横の窓に貼付し、3月から実証実験を実施中だ。太陽電池パネルにはCNT-PSCに加え、同様にCNT電極を搭載した「有機薄膜太陽電池」(CNT-OPV)も貼付されており、それぞれの発電量が電子パネルに表示される仕組みになっている(そのほか、太陽光で蓄えた電力を利用してLEDを点灯させるシステムを備えている)。
研究チームは、実証実験を通して多くの人々に公開することで、再生可能エネルギーの重要性や太陽光エネルギーの有効活用に関心を持ってもらえる機会を創出するとする。また、環境に優しい技術の開発やエネルギーデバイスの産業化への関心を広げるきっかけとして、持続可能な未来への意識を高めることを目指すとしている。