ミスミグループ本社(ミスミ)は4月17日、同社の米国子会社であるMISUMI Investment USA Corporation(MIUC)を通じ、米国製造業におけるカスタム機械部品のオンライン調達サービスを提供するFictivを、総額約3.5億米ドル(約501億円)で買収することを決定し、両社間での買収に関する合併契約を締結したことを発表した。
同発表に際しミスミとFictivは、オンラインで合同記者会見を実施。ミスミの大野龍隆代表取締役社長らが登壇し、買収の狙いや今後の機械部品市場の見通しなどを語った。
デジタルモデルシフトを推進するミスミの新戦略
ものづくり現場で必要とされる機械部品や工具、消耗品などをグローバル規模で短納期かつ確実に届けるというユニークな事業を展開するミスミは、インダストリアル・オートメーション(IA)産業の調達における非効率を解消し、顧客の“時間価値創造”に貢献してきた。
そんな同社はここ数年にわたり、「デジタルモデルシフト」を加速させるというビジネス戦略を打ち出し、さまざまな商品・サービスを発表している。第1弾としてリリースされた「meviy」は、機械部品の3D CADデータをアップロードするだけで即時見積もり・最短1日出荷を実現するオンライン調達サービスで、5年間で国内外約17万ユーザーを獲得。またその後も、生産間接材の購買プロセスDXに貢献する「D-JIT」や、間接材の調達にかかるトータルコストを削減する「MISUMI floow」などの提供を開始し、ものづくり市場における課題解決に取り組んでいる。
ミスミの大野代表取締役社長は、「今後もデジタルモデルシフトを実現する製品・サービスをどんどん市場に投入していきたい」と、現在の方針をこれからも継続していく方針を明言。そして「ここ数年取り組んできたデジタルモデルシフトをより一層加速させるための取り組み」として、今般のFictiv買収を決定したと語る。
meviyと補完関係にあるFictivの買収でシナジー創出に期待
米・オークランドに拠点を置くFictivは、カスタム機械部品のオンライン調達サービスを提供している企業。中でも同社は、製造業の中でも上流にあたる商品開発市場において大きなニーズがある複雑形状の部品製造に強みを持ち、また米国をはじめ中国、インド、メキシコの世界4極における生産ネットワークを有するという。
ミスミの常務執行役員で同社ID企業体の社長を務める吉田光伸氏によれば、ミスミが提供するmeviyは、アジア地域を中心に、ものづくり下流の設備製造市場で多く必要とされる単純形状の部品に強みを発揮しているとのこと。そのため「Fictivが強みとする領域はmeviyと補完関係にある」とし、「またミスミが現在強化中である米国市場を主戦場としている」という点で、両サービスはシナジーを生み出しやすい関係だとする。
そして吉田氏は、Fictivが有する強みとして「商品開発市場に最適化されたサービス」「顧客資産と高い組織能力」「強力な成長力」を挙げた。米国を中心に高度なAI自動見積もりと豊富な加工方法を組み合わせた機械部品調達サービスを提供してきたFictivは、商品開発市場における顧客基盤が充実している上、業界に特化した営業力およびITエンジニアリング能力を有するとのこと。また過去5年のCAGR(年平均成長率)は40%を超えていることから、ミスミが目指すデジタルモデルシフトの成長エンジンとして、Fictivの買収が今後の大きな事業成長に貢献するとした。
ミスミを“世の中で最もCADデータが集まる場”へ
ミスミによると、今回の買収は逆三角合併方式で行われ、MIUCがFictivを完全子会社化する形で実行される予定。Fictivの企業価値は3.5億米ドルで、買収資金はミスミの手元資金から捻出されるという。また両社間での買収に関する契約は4月17日に締結されており、6月中にはMIUCによるFictiv完全子会社化の実行を予定しているとした。
ミスミの吉田氏は、今後ミスミとFictiv両社のサービスを向上させてより多くの顧客・CADデータを蓄積し、AIを活用した自動解析を重ねて自動見積もりや加工データのモデル進化に貢献することで、さらなる時間価値向上を実現するという好循環を目指すとし、「我々のサービスを“世の中で最もCADデータが集まる場”としていき、第二のミスミを創業することを目指す」とコメント。そして「モデル進化の実現によりデジタルモデルシフト戦略を加速させ、IAの顧客や社会の発展を支え続ける企業として進化を遂げていきたい」と語った。