電通グループの国内事業を統括・支援するdentsu Japanは5月19日、AI戦略「AI For Growth 2.0」の説明会を開催した。説明会には、dentsu Japan データ&テクノロジー プレジデントの松永久氏、dentsu Japan グロースオフィサー(特任執行役員)/エグゼクティブ・クリエイティブディレクター/主席AIマスターの並河進氏、電通デジタル CAIO(最高AI責任者)兼 執行役員/主席AIマスターの山本覚氏が登壇した。
電通のこれまでのAIにまつわる取り組み
国内電通グループはこれまで、独自のAI戦略「AI For Growth」を掲げて取り組みを進めてきた。
「国内電通グループは、AI For Growthの領域として、『クライアントサービス(マーケティング・トランスフォーメーション)』『AIアセット(独自AIモデル・人財育成)』『コーポレート機能(ガバナンス)』の3点に取り組んできました」(松永氏)
AI For Growthの進化としては、2024年8月に電通デジタルと電通のコピーライターたちが長年培ってきた思考プロセスをAIに学習させた広告コピー生成ツール「AICO2(AI Copy Writer 2)」をリリースしたことを皮切りに、2025年1月にはG検定(ジェネラリスト検定)を1114人が取得したことを発表。同年3月には、AIを活用した統合マーケティングソリューションブランドである∞AIの大幅アップデートを発表した。
そして今回、独自のAI戦略「AI For Growth」を刷新した「AI For Growth 2.0」が発表された(国内電通グループの4社電通、電通デジタル、電通総研、イグニション・ポイントが刷新)。
「AI For Growth 2.0」へ進化
続いて登壇した並河氏は、AI For Growth 2.0の進化ポイントとして「AIモデルの進化」「AIマーケティングの進化」「AIトランスフォーメーションの進化」という3点を挙げた。
「AI For Growth 2.0では、大規模調査データや社内の専門人財知見などの独自のAIアセットとAI技術を融合させたAIモデルの深化により、マーケティング手法に革新をもたらし、その全工程をAIエージェントがサポートするマーケティング領域の『AIネイティブ化』を目指します」(並河氏)
AIモデル「People Model」開発
AI For Growth 2.0の下、新たに1億人規模のAIペルソナを仮想的に再現するAIモデル「People Model」が開発された。
People Modelは、電通が独自構築している大規模調査データを、LLM(Large Language Model:大規模言語モデル)を活用してファインチューニングすることで、1億人規模の高解像度なペルソナを仮想再現する。
People Modelは従来の限定的なペルソナとは異なり、多人数・多層のペルソナ群を定義できるため、時間の制約を受けずに、学習データのない未知の質問に対するアンケート調査やマーケットシミュレーションの実施を可能にしている。
このAIモデルを通じて、設問数に制限のないアンケート調査の高精度なシミュレーションや、調査対象者の確保が難しい属性についての自由自在な仮想インタビューが行える。
「Creative Thinking Model」の機能拡充
また、社内の専門人財(クリエイター、プランナーなど)の知見やアイデア、思考法などを学習させた「Creative Thinking Model(創造的思考モデル)」についても、その機能を拡充しビジュアルアイデアの生成が可能になった。
同AIモデルは、2024年8月に発表したAI広告コピー生成ツール「AICO2」に続く第2弾として、東京大学AIセンターとの共同研究結果をもとに、「Creative Thinking Model」の機能を拡充。社内の専門人財の発想プロセスを学習したAIが、高度なビジュアルアイデアの生成を実現したものとなっている。
「従来の画像生成AIの課題として、アートディレクターの考える『伝えたいことをより効果的に伝える』というビジュアルアイデアとは異なっている、というものがありました」(並河氏)
そこで、電通内で過去に制作した「人権ポスター」「環境スローガンポスター」「広告電通賞展ポスター」などの電通に著作権が帰属している画像データでアートディレクターの思考法を追加学習したFine-Tuned LLMが画像生成用プロンプトを開発することで、より創造的なビジュアル生成を実現したという。
同社は「People Model」と「Creative Thinking Model」という2つのAIモデルの進化によって、「想像力」と「創造力」を拡張していきたい構え。
「統合マーケティングAIエージェント」開発
さらに、上記2つの独自AIモデルの構築に加え、電通の「AIQQQ FLASH」「AIQQQ TALK」、電通デジタルの「∞AI」、両社の「AICO2」などのAIアプリケーション群とのデータ連携を図ることで、ユーザーとの対話を通じて自律的に最適な答えを導き出す「統合マーケティングAIエージェント」の開発にも取り組んでいる。
このAIエージェントは、同社グループ内での活用にとどまらず、今後は顧客向けにも提供していく予定とのこと。
さらに、業務プロセス改革(BPR)への伴走支援や、顧客ニーズに応じたカスタマイズ型AIエージェントの開発・導入などにより、マーケティング業務の高度化・高速化・効率化・内製化の実現と、顧客のAIトランスフォーメーションを統合的に支援していきたい考え。
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