
「真面目で仕事に厳しい」社員がなぜ……
「お客様や社会からの信頼を損なうような法令違反を起こしたことについて、当社の存在意義が問われかねない、極めて深刻な事態。経営トップとして重く受け止めている」――こう話すのは、三井住友信託銀行社長の大山一也氏。
2025年5月1日、三井住友信託は、元社員が起こしたインサイダー事件を受けて、調査員会による報告書の公表、再発防止策、処分について発表した。
この元社員は、株主名簿の管理やガバナンスの助言を行う証券代行営業部の部長を務めていた。この部署は、信託銀行を象徴する業務を担っており、企業の未公開情報が集まる。元社員は業務で得た情報を使ってインサイダー取引を行っていた。
元々、この元社員は社内規定に違反して個別株取引を行っていたが、50歳を迎えた頃、自身のキャリアに限界を感じ、老後の資金を確保する目的でインサイダー取引に手を染めるという形で「一線」を超えた。
3銘柄のインサイダー取引で約2491万円の利益を上げたが、25年3月に証券取引等監視委員会に告発され、その後、在宅起訴された。
だが、この元社員に対する社内評は「真面目で仕事に厳しい」というもの。「誰かをかばっているのではないか」といった声が上がるほどだったが、社内の人間では「裏の顔」は見抜けなかったということ。
再発防止策として、経営トップ自らによる部長クラスへの研修や、役員、社員の株式などの取引状況のモニタリングなどを強化する。三井住友信託社長の大山氏や、三井住友トラストグループ社長の高倉透氏らは月例報酬の減額という処分を受けた。
調査委員会は、三井住友信託に限らず多くの日本企業で社内体制が「性善説」で構築されていると指摘。「性悪説」とは言わないまでも「性弱説」に立つことが必要ではないかと提言。「ご指摘の通りと真摯に受け止めている」と大山氏。
「資産運用立国」が叫ばれる中で、信託銀行は”旗振り役”を担う立場。再発防止策の徹底とともに、役員・社員が公明正大な形で資産形成ができるための仕組みづくりをすることが求められている。