TOKIO国分太一氏も登壇し“農業の未来”を考える

ヤンマーホールディングスは6月11日、食料生産とエネルギー変換の分野で自社が有するテクノロジーを集結し、持続可能な農業の実現に向けて未来の農地を守る包括的プロジェクト「SAVE THE FARMS by YANMAR」を開始すると発表。その第一弾として、環境再生型農業と営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)などを組み合わせたソリューションを展開することを明らかにした。

新プロジェクトの始動にあたり、ヤンマーは、事業説明会を開催し、同社取締役CDOの奥山博史氏、同社技術本部 共創推進室の中野年章室長らがプロジェクトの概要を説明。また説明会の中で行われたトークセッションでは、TOKIOの国分太一副社長と千葉エコ・エネルギーの馬上丈司代表取締役が登壇し、持続可能な農業について意見を交わした。

  • ヤンマーの奥山博史CDOとTOKIOの国分太一氏

    ヤンマー 取締役CDOの奥山博史氏(左)とTOKIOの国分太一氏(右)

サステナブルな農業に向け食料とエネルギーの両面で革新へ

日本の農業においては昨今、高齢化や人手不足などにより荒廃農地が増加傾向にあり、特に農地面積の約40%を占める中山間地ではその傾向が顕著となっているため、農耕地面積は減少の一途をたどっている。また、温室効果ガスの排出量削減など環境に配慮した農業の確立も求められており、農業におけるカーボンクレジットの創出など制度面の整備が進みつつあるものの、導入に向けた営農サポートや技術開発の重要性が高まっている。

そうした中で、農業に新たな収益を生み出す事が期待される、農地の上で発電を行う“営農型太陽光発電”についても、設備の初期費用負担や生育環境への不安が導入障壁となっているとのこと。食料問題も叫ばれる昨今において、農作物の生産確保につなげるためには、さらなる技術のアップデートが必要だとされていた。

かねてより食料生産とエネルギー変換の分野で顧客の課題解決に取り組み“A SUSTAINABLE FUTURE”を理念に掲げるヤンマーグループは、今般、先に述べた農業の課題に対してヤンマーの技術・ノウハウを最大限活用したソリューションを提供することで、耕作放棄地の増加を防ぐとともに農地の未来を守る同社独自のプロジェクト「SAVE THE FARMS by YANMAR」を開始することを発表。こうした取り組みにより未来の農地を守り、収益性向上による農業支援や地方創生、障がいを持つ人々などの雇用機会創出が実現されるとする。

  • 持続可能な農業のイメージ

    「SAVE THE FARMS by YANMAR」で実現を目指す持続可能な農業のイメージ(出所:ヤンマー)

「SAVE THE FARMS by YANMAR: Vision Movie」(出所:YANMAR Japan YouTubeチャンネル)

農業と再エネ発電を両立させる新ビジネスモデルを構築

そして同プロジェクトにおける第1弾の取り組みとして、ヤンマーは、農業を通じて排出される温室効果ガスを削減しながら土壌改善を行う“環境再生型農業”の技術と、農地上で太陽光発電を行い農作物生産と同時に再生エネルギーを創出する営農型太陽光発電のテクノロジーを掛け合わせた新ソリューションの創出を目指すとする。環境再生型農業は、土壌改善や脱炭素化によるメリットを、一方の営農型太陽光発電は、電力や収益の創出という貢献を目的としたもので、これらを組み合わせることで、環境負荷を減らしつつも安定した農業経営の実現をサポートするとした。

説明会に登壇したヤンマーの中野年章氏によれば、営農型太陽光発電の開始には、設備の設置や維持管理に必要なコストが大きく、農家自身で取り組むことは難しいが、今般のプロジェクトではヤンマーが投資を行い資産も保有するため、農家側での投資は不要だという。また同社は、これまで培ってきたデータや農業のデジタルツイン技術を組み合わせ、ヤンマー自ら農業に取り組みながら実証にあたるとのこと。収量の最大化や発電量の確保などさまざまな目標に向けたナレッジを蓄積し、将来的には最適化したうえで社外にも展開していきたいとする。

  • ヤンマーの中野年章氏

    ヤンマー 技術本部 共創推進室の中野年章室長

なお具体的には、地域農家が営農を行い、その支援金をヤンマーが支払う“農家営農型モデル”に加え、ヤンマーが農家から借用した土地を用いて環境再生型農業技術を活用し、営農から作物販売までを同社側で担う“ヤンマー自社営農型モデル”も構築したとのこと。脱炭素に貢献する農法をはじめとした、データに基づく環境再生型農業の手法確立を目指すという。

  • 環境再生型農業×営農型太陽光発電によるソリューションの概要

    環境再生型農業×営農型太陽光発電によるソリューションの概要(出所:ヤンマー)

国内2か所を起点に開始 - 2030年には1000haに適用を目指す

そして今般同社は、滋賀県栗東市と岡山県岡山市の農場を対象として、実際に取り組みを開始する。前者はヤンマーグループ特例子会社による障がい者雇用、後者は地域農家による営農を通じて、持続可能な農業を行うとのこと。2026年4月ごろをめどに水田の上空部に発電設備を設置し、そこで生み出されたグリーン電力により蓄電池や電動農機などを活用することで、脱炭素に貢献するという。

なおヤンマーによると、国内2か所における各ソリューションのせいか確認や経済合理性の検証を経たのちに、国内他地域へとソリューションを展開していく予定だといい、2030年度までに全国で1000haの耕作面積へと実装することを目指すとする。すでに荒廃農地となっている土地に加え、現在は農業生産を行っているものの、高齢化などの影響で近いうちに農業から撤退することを検討中の土地なども対象だといい、農家には土地の利用料(1haあたり年間約数十万円になる見込み)を支払うことで、持続可能な農業の形を実現していくとした。

また2030年度以降は、国内に限らず同様の課題を抱える海外の農地へも適用範囲を広げていきたいとしており、産官学を巻き込みながら共創を進めることで、農業の分野から持続可能な社会の実現を目指すとしている。

25年農業に携わる国分太一氏「野菜の個性も尊重して」

今回の説明会の後半では、ヤンマーの奥山博史氏、ヤンマーとも共同研究に取り組んでおり、説明会の中で営農型太陽光発電に関する解説も行った千葉エコ・エネルギーの馬上丈司氏と共に、男性アイドルでありながら長年にわたり農業に携わり、現在では福島県西白河郡の西郷村で「TOKIO-BA」プロジェクトを先導するTOKIOの国分太一氏が登壇し、トークセッションを繰り広げた。

  • トークセッションの様子

    ヤンマーの奥山氏、TOKIOの国分氏、千葉エコ・エネルギーの馬上丈司氏(左から順)によるトークセッションの様子

セッションの中で“持続可能な農業とは”と問いかけられた国分氏は、「まずは農業に興味を持ってもらうことがとても大切」としつつ、「今の子どもたちには、その導入になる機会がほとんどないのではないか」と回答。自身は20代のころから仕事として農業に“触れさせられた”中で、先人たちから農作業のやり方やコツを教わるうちに、いつの間にか夢中になっていたといい、「最先端の研究をしている人たちももちろん重要です。ただ、農業の“楽しさ”や“大切さ”を知ること、そして伝承していくことが、持続可能な農業のためには必要だと思っています」と語った。

またヤンマーの奥山氏は農業の未来について問われ、「我々自身が農業に関わっていくことで、そのすそ野を広げていく必要がある」とし、「最近では食べ物があることが当たり前になりつつありますが、実際はそうではない。食卓に至るまでに、さまざまな工夫や苦労があることに触れることが、持続可能性にもつながると思っています」と話す。

そして国分氏は、農作物の“規格外”という表記に問題を提起し、「愛情をかけて育てた野菜などの作物に、規格外というのはないと思います。廃棄を減らして持続可能にしていくためには、規格外の商品も購入するなど消費者としての視点も変えていくことが必要なのではないか。人間と同じく、野菜の個性も尊重していってほしいです」と締めくくった。

  • “農業”であいうえお作文を披露する国分氏

    “農業”であいうえお作文を求められた国分氏は、約25年もの農業の経験を振り返りながらコメントした