陸戦の分野では、レーザー測遠機が多用されている。また、レーザー誘導兵器もいろいろ使われている。例えば、AGM-114ヘルファイア対戦車ミサイルや、AGR-20A APKWS II(Advanced Precision Kill Weapon System II)誘導ロケット弾がそれ。すると「レーザー照射されたら、次は撃たれる」ということだから、レーザー照射されていることを知らせる警報装置の需要が発生する。 →連載「軍事とIT」のこれまでの回はこちらを参照

  • レーザー誘導ロケット弾APKWS IIのシーカー・ヘッド部 撮影:井上孝司

陸ではおなじみのレーザー警報受信機

実際、装甲戦闘車両ではレーザー警報受信機を装備する事例が多い。我が国でも、たとえば10式戦車には付いている。諸外国の装甲戦闘車両でも、導入事例は多い。

では航空機はどうか。レーザー・ビームライド誘導の対空ミサイルがないわけではないが、どちらかといえば少数派。測距についてもレーザーを使用する事例は聞かない。よって、「レーザー照射に起因する脅威の襲来」は問題視されていないようで、航空機がレーザー警報受信機を備える事例は聞かない。

では艦艇はどうか。実は意外と、レーザー警報受信機の搭載事例がある。それらしきデバイスを最初に自分の眼で見たのは、2019年に晴海に来航した中国海軍の昆明級(052D型)駆逐艦「太原」だった。

艦を直接見ているときには、写真を撮り集めるだけで頭がいっぱいだったから気付かなかったが、撮ってきた写真を拡大して子細に見ていったところ、上部構造のあちこちに、レーザー警報受信機らしきデバイスを見つけた。

レーザー警報受信機の設置を確認できた外国艦

その後、日本に来航した外国の艦を見てみると、トルコ海軍のアダ級コルベットや、ドイツ海軍のバーデン・ヴュルテンベルク級(125型)フリゲートで、やはりレーザー警報受信機の設置を確認できた。

  • 中国海軍の052D型駆逐艦。赤丸で囲んだのが、レーザー警報受信機ではないかと疑っているデバイス 撮影:井上孝司

  • トルコ海軍のアダ級コルベット。赤丸で囲んだレーザー警報受信機はアセルサン製のLiAS-100D。上に見えるのはアセルサン製の対魚雷デコイ発射器HIZARで、これはレーザー照射とは関係ない 撮影:井上孝司

また、ドイツ海軍の新型艦ニーダーザクセン級(126型)フリゲートには、エルビット・システムズの現地法人、エルビット・システムズ・ドイッチュラントが、レーザー警報受信機ELNWS(Enhanced Laser Naval Warning System)を提案したという。

エルビットの説明によると、このシステムはレーザー測遠機、レーザー目標指示機、レーザー・ビームライド誘導の区別をつけられる。これを艦の指揮管制システムと連接すれば、指揮管制システムが脅威情報を得る手段をひとつ増やすことになる。

また、後になって調べてみたら「実は付いてました」だったのが、中国海軍の江凱II型(054A型)フリゲート。外見は昆明級が装備しているものと似ている。

  • 中国海軍の054A型フリゲート。赤丸で囲んだデバイスの外見は、052D型のものと似ている 撮影:井上孝司

サーブがレーザー警報受信機を展示していた

といったところで、DSEI Japanの出番である。サーブの展示はなかなか積極的で、前回にも出ていたGAMER模擬交戦訓練支援システムやカール・グスタフ無反動砲に加えて、GBU-39/B SDB(Small Diameter Bomb)誘導爆弾にロケット・ブースターを追加した地上発射型のGLSDBなどを展示していた。

それらの目立つ展示からちょっと離れたところにあったのが、レーザー警報受信機やミサイル接近警報装置の一群。実はサーブでは、NLWS(Naval Laser Warning System)という製品を手掛けている。たまたま担当の方がいらしたので、お話を伺ってみた。

レーザー警報受信機のセンサー「LWS-330」「LWS-310」

レーザー警報受信機のセンサーは「LWS-330」と「LWS-310」の2モデル。これらは、同じハードウェアで陸海空に対応可能であるという。つまり、装甲戦闘車両にも艦艇にも航空機にも取り付けられる。

  • サーブのレーザー警報受信機「LWS-330」 撮影:井上孝司

  • サーブのレーザー警報受信機「LWS-310」 撮影:井上孝司

レーザー警報受信機だけだと警報を発する機能しかないが、管制システムを介してデコイ発射装置と組み合わせれば、「測距や誘導のためのレーザーを照射された」→「デコイや発煙弾を発射して妨害」のプロセスを自動的に実施できる。なお、デコイ発射機はラインメタルのMASS(Multi Ammunition Softkill System)を使うという。この製品は何度も見たことがある。

  • 独海軍のバーデン・ヴュルテンブルク級(F125型)フリゲートが搭載するMASSデコイ発射器。扇子のような平面型が特徴 撮影:井上孝司

つまりここでも「統合化されたシステムを作ることの意味」があるのだと分かる。警報を出すだけでなく、その後の対処まで自動的に実施してこそ、生残性の向上につながる。

ミサイル接近警報装置「MAW-400」

このほか、ミサイル接近警報装置の「MAW-400」も展示していた。ミサイルの飛来を検知する手段としては赤外線を用いる派閥と紫外線を用いる派閥があるが、サーブの「MAW-400」は紫外線を使用するとのこと。

以前にも同じことを書いたかも知れないが、低空を飛行する航空機やヘリコプターでは、地上の赤外線発信源がバックグラウンド・ノイズになってしまう。だから、排気炎から発する紫外線を検知する方が確実性が高い。

  • サーブのミサイル接近警報装置「MAW-400」は、紫外線で脅威を検知するタイプ 撮影:井上孝司

著者プロフィール

井上孝司


鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野で、技術分野を中心とする著述活動を展開中のテクニカルライター。
マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。『戦うコンピュータ(V)3』(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて『軍事研究』『丸』『Jwings』『航空ファン』『世界の艦船』『新幹線EX』などにも寄稿している。このほど、本連載「軍事とIT」の単行本第5弾『軍用センサー EO/IRセンサーとソナー (わかりやすい防衛テクノロジー) 』が刊行された。